腰痛とは
腰痛の定義
「腰痛」とは疾患(病気)の名前ではなく、腰部を主とした痛みやはりなどの不快感と
いった症状の総称です
一般に座骨神経痛を代表とする下肢の症状を伴う場合も含みます
腰痛は誰もが経験しうる痛みです
原因と病態
腰(脊柱)由来
①成長に伴う
先天異常、側弯症、腰椎分離症など
②加齢により生ずる
変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変性すべり症など
③感染や炎症による
腰椎骨折や脱臼などの外傷、カリエスや化膿性脊椎炎など
④腫瘍による
転移がん
腰以外に由来
血管の病気
解離性大動脈瘤などの血管の病気
泌尿器の病気
尿管結石
婦人科の病気
子宮筋腫や子宮内膜症
消化器の病気
胆嚢炎や十二指腸潰瘍
整形外科の病気
変形性股関節症
心理的な原因
身体表現性障害、統合失調などの精神疾患や精神的なストレス
急性腰痛の「定義」
腰に痛みが生じてから、おおむね4週間以内におさまるものが「急性腰痛」とされます
痛みなどの特徴
急激な激痛、急激で激しい痛み
多くの場合、突然の強い痛みや、動けなくなるほどの強烈な痛みに襲われます
重いものを持ち上げようとした時や、くしゃみをした瞬間などに「ギクッ」として腰に激痛が走るぎっくり腰などが良い例です。
大きな痛みから始まるため、腰痛がいつから始まったのか何がきっかけだったのかが明確にわかるのも特徴です
安静にすると痛みが徐々に和らぐ
初めは強い痛みも、横になって体を動かさずに安静にしていれば、日ごとに痛みが和らいでいきます
自然に治る
安静を続けていれば、特別に病院で治療を受けなくともだいたい1週間程度でだいぶ良くなります。長くても1ヶ月もすれば急性腰痛の9割は完治するといわれます。これは筋肉や靭帯の損傷を主な原因とする「ぎっくり腰」でも、椎間板の変性による「椎間板ヘルニア」などでも、ほぼ変わりありません
腰にはっきりとした異常が見られない
激痛があっても、X線(レントゲン)などの画像検査の結果、腰の骨や椎間板、神経などに明らかな異常が見られないことが多いです。こうした原因不明の非特異的腰痛が大部分を占めます
主な原因
腰をひねる動作
腰の使いすぎによる筋肉疲労
腰の負担が大きい姿勢や動作、激しい運動を続けるなどして筋肉の疲労がたまると、筋肉痛、肉離れ、捻挫などを起こして痛みます
筋肉痛のように腰のコリや張り、鈍い痛みといった軽い症状から始まることもあれば、ぎっくり腰のように突然強い痛みに襲われることもあります
腰の筋肉疲労による腰痛を筋・筋膜性腰痛といいます
腰椎(腰部の背骨)の変性
腰椎を構成する骨や椎間板が老化して形や質が変化(変性)し、炎症が起きたり、周囲の神経を圧迫するなどして痛みます
急性腰痛が起こりやすいのが腰椎椎間板ヘルニアで、急な激痛が起こる「急性型」と、鈍い痛みが長く続く「慢性型」があります
軽度のものなら自然に治ることが多いですが、重度になると慢性腰痛に移行する
腰のケガ(外傷)
スポーツで相手と激しく接触したり、事故に遭うなどした時に、腰に一度に大きな衝撃が加わって組織が傷つき、痛みが発生します
皮膚や筋肉の裂傷、挫傷、打撲、捻挫、骨折などによる痛みです
骨粗しょう症によって骨がもろくなっていると、ちょっとした転倒、せき・くしゃみなどの軽い衝撃で骨折することもあります
内蔵の病気や精神的なストレス
短期間で痛みが治まるものではありませんが、急で激しい痛みが起こることがあるため、急性腰痛として紹介します
一部の内臓の病気には腰に大きな痛みが見られるものがあります
腰以外の箇所も傷んだり、安静にしていても痛みが軽くならないのが特徴です
頻度は多くありませんが、不安やストレスが原因で腰痛が起こる心因性腰痛症においても激しい痛みが生じることがあります
激しい腰痛が見られる病気
胆石症、尿路結石、化膿性脊椎炎、脊髄腫瘍・脊椎腫瘍、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頸管炎など
急性腰痛は、痛み自体は激しくても、時間の経過とともに症状は和らいでいき、痛み以外に深刻な症状が現れることも少ないため、あまり心配のない腰痛です
腰に負担をかける生活が改善されないと度々繰り返すケースも多いです
再発を繰り返すたびに症状は重くなっていき、椎間板ヘルニアなどを併発する
1ヶ月以上経っても症状が改善しなかったり、痛み以外の症状が見られるようなら、早めに整形外科で診断を受けてください
慢性腰痛について
慢性腰痛の定義
腰の痛みが3ヶ月以上続くものが「慢性腰痛」とされます
痛みなどの特徴
腰の違和感・不快感
鈍痛がいつまでもしつこく続く
痛み自体はさほど大きくなく、鈍く重苦しい痛みであったり、「ズキズキ」、「ジンジン」、「ジーン」といった体の奥に響くような痛みである場合が多いです
不快な痛みが慢性的にダラダラと続いたり、痛みがおさまったり強くなったりを繰り返したり、徐々に強くなっていく場合もあります。腰のこり、張り、疲れ、重さなどの違和感や不快感を感じることも良くあります
いつのまにか痛み始める
気がついたら腰痛になっていたという感じで、何をきっかけに、いつ痛みが始まったのか正確に言えないことが多いです
初めから鈍い痛みが生じることもあれば、激しい急性腰痛をこじらせて慢性腰痛に移行するケースもあります
何もせずに自然に治る可能性は低い
急性腰痛の場合は安静にしていれば治ることがほとんどですが、慢性腰痛では何の対策もせずに自然に治る確率は低く、科学的根拠に基づいた治療が必要となります
腰の障害がだいぶ進行して悪化していたり、内蔵の病気が原因だったり、ストレスなどの心理的要因が深く関与していたりといったことが多いため、治るまでにはどうしても時間がかかります
完治しにくい
慢性腰痛は体の自然な老化現象として発生したり、痛みの元となる骨や神経の損傷が自然治癒しないほど進んでしまっていたりと、痛みを根治できないケースも多いです
一時的に痛みが解消しても、その後再発する頻度も高くなります
主な原因
原因が明らかなもの腰椎の変性過程
脊椎の老化過程
腰椎の障害
腰椎(腰部の背骨)を構成する骨や椎間板が衰えて形や質が変化し、炎症が起きたり、周囲の組織を刺激するなどして痛みます
椎間板ヘルニアは自然に治ることも多いですが、適切な治療を受けないと腰痛の解消が難しい障害の方が多いです
椎間板症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症・すべり症、変形性腰椎症、脊椎側弯症、骨粗しょう症など
腰椎の病気
腰の骨に細菌が感染する病気や、骨にできる腫瘍などです。
放置すると骨や軟骨が破壊されてしまいます。安静にしていても痛みが治まらないのが特徴
化膿性脊椎炎、脊椎カリエス、脊髄腫瘍・脊椎腫瘍など
原因がはっきりとわからないもの(非特異的腰痛)
腰椎に異常があると思われるもの
レントゲン、MRIといった画像検査では、骨や椎間板などの組織に明確な異常が見られない腰痛を非特異的腰痛といいます
急性腰痛の多くが非特異的腰痛ですが、慢性腰痛にも原因が分からないものがあります
詳しい原因は不明だが、神経のどこかに障害が起きている神経性の痛みと思われる場合は坐骨神経痛と診断され、神経以外の筋肉や骨に原因があると思われれば腰痛症
心の病が関係していると思われるもの
近年の研究結果から、原因不明の腰痛の3分の2(腰痛全体の約半分)には、ストレス、不安、鬱(うつ)などの心理・社会的要因が関与している腰痛は心因性腰痛症と呼ばれます
心理的要因が深く関わっているほど、原因不明の腰痛と診断される確率が高まるほか、腰痛が慢性化したり、強い痛みが生じる危険性が高まります
内臓の病気
内臓の病気の多くは、腰椎や腰の筋肉に異常が見られず、専門的な検査を受けなければ原因の特定が困難なものばかりです
痛みの原因となっている病気が治療されない限り、腰痛も解消されません。安静にしていても痛みが治まらなかったり、腰痛以外の痛みや、発熱、嘔吐、排尿・排便障害などの内科的症状が伴うものが多いです
内科的疾患が原因の腰痛は、腰痛全体の1%ほどです
内臓から腰痛が起こる病気
慢性腰痛は、痛みはそれほど大きくないことが多いですが、自然に治る見込みは少なく、原因を特定して適切な治療を行っていく必要があります
何の対処もせずに放置すると、腰椎の変性が進んだり、長引く痛みがストレスになるなどして、更に症状が悪化する危険性が高まります
原因が特定できない腰痛が長期にわたって続いている場合、「原因は○○だ!」、「もっと詳しい検査をすれば原因が分かる」、「手術をしないから治らないんだ」といったこだわりや思い込みは捨てて、不安やストレスなどの心の問題や、腰とは関係のない内蔵の病気の可能性も視野に入れて、積極的かつ気長に治療を行っていく心構えが大切です
腰痛を慢性化させる要因
急性腰痛の9割は自然に治りますが、残りの1割は慢性腰痛に移行してしまいます
①腰に負担をかける生活環境
腰に負担をかける要因が重なることで、腰椎を構成する筋肉、骨、椎間板、関節、靭帯、神経などの組織が疲弊・損傷して腰痛を発生させます
腰痛が発生すれば腰をいたわり安静にするので早期に回復します
様々な事情により適切な処置をとることができず、いつまでも腰に負荷をかけ続けていれば、当然損傷した組織はいつまでも回復せず痛み続けます
どんどん症状は悪化し、治るのに時間がかかるようになります
②加齢
体の組織は歳をとるごとに老化していきます。腰の骨や椎間板の変性が進むことで、骨盤は前傾し、背骨はゆがみ、徐々に腰が曲がっていきます
腰を支える力が衰えて腰痛を発症しやすくなります
手術によってヘルニアを取り除いたり骨を矯正したとしても、再び老化による変性が起きるため、高齢者ほど再発も多くなります
自然な老化現象ですので、高齢者ほど慢性的な腰痛になりやすいのは仕方がないことです
適度な運動を行い、バランスの良い食生活を送るなど、健康的で規則正しい生活を送ることで、老化を遅らせ慢性腰痛を回避することは十分可能です
③精神的ストレス
急性腰痛が慢性腰痛に移行する原因として、1や2の要因よりもストレスなど心理・社会的要因の方がずっと深く関わっていることが、数々の研究データから明らかにされています
ストレスを原因とする腰痛(心因性腰痛症)は慢性的な腰痛によく見られます
EUが2004年に発表した「慢性腰痛の治療ガイドライン」によると、慢性腰痛の患者の1/3に、痛みの原因として強いストレスなどの精神的問題、うつ症状、薬物乱用の関与がみられたということです
慢性腰痛の患者の約80%に抑うつ状態(うつ病になりかけの状態)が確認されたとの報告もあります
これはストレスなどの心の問題が腰痛を長引かせる大きな要因となるからです
原因不明の腰痛(非特異的腰痛)の3分の2には多かれ少なかれ、ストレス、不安、鬱(うつ)などの心理・社会的要因が関与していることが分かっています
ストレスが痛みの原因となっている場合、ストレスを取り除くことができなければ腰痛も治らずに慢性化します
④過度の安静
腰が痛いからといって、腰を過保護にして安静にしすぎることは、かえって回復を遅らせたり症状を悪化させることにつながります
特に高齢者の場合、寝たきりにつながる恐れもあります
ぎっくり腰の初期など、腰に激しい痛みがある場合は安静が第一ですが、ある程度痛みが和らいで動けるようになってきたら、無理のない範囲で普段どおりに生活したほうが、安静にするよりも治りが早いことが分かっています
過度の安静による弊害
運動不足になり筋肉や骨などの組織が衰え、関節の働きも悪くなり、腰を支える力が弱まる
体を動かさないことで血行が悪くなる。すると筋肉が固くなって痛みを生じやすくなるほか、痛みや疲労が回復しにくくなる
寝てばかりいると気持ちがふさぎこみやすい
意識が痛みだけに向いてしまい、痛みというストレスが高まって更に痛みが強まるという悪循環にはまる
※全ての腰痛の95~99%が自然に治る「グリーンライト」とされており、悪性腫瘍(がん)、感染症、骨折などによる腰痛が「レッドフラッグ」で、腰痛の発症に関わり、回復を妨げて慢性化させたり再発率を高める危険因子が「イエローフラッグ」と定義されます
特異的腰痛と非特異的腰痛
医師の診察および画像の検査(X 線や MRI など)で腰痛の原因が特定できるものを特
異的腰痛、厳密な原因が特定できないものを非特異的腰痛といいます
ぎっくり腰は、椎間板を代表とする腰を構成する組織のケガであり、医療機関では腰椎捻挫又は腰部挫傷と診断されます
厳密にどの組織のケガかは医師が診察しても X 線検査をしても断定できないため非特異的腰痛と呼ばれます
腰痛の約 85%はこの非特異的腰痛に分類されます
通常、腰痛症と言えば非特異的腰痛のことを指します
〇特異的腰痛
原因が確定できる特異的腰痛は、医療機関を受診する腰痛患者の 15%くらいの割合
腰痛自体よりも座骨神経痛を代表とする脚の痛みやしびれが主症状の疾患である腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症がそれぞれ4~5%
約 15%:特異的腰痛 (原因が特定できる腰痛)
・椎間板ヘルニア 4~5%
・脊柱管狭窄症 4~5%
・腰痛よりも下肢症状(座骨神経痛など)が主訴
・圧迫骨折 4%
・感染性脊椎炎や癌の脊椎転移 1%
・大動脈瘤、尿路結石などの内臓疾患1%未満
約 85%:非特異的腰痛 (原因が特定しきれない腰痛)
① 腰椎椎間板ヘルニア
椎間板が突出あるいは脱出し、座骨神経の始発駅部分である腰の主に神経根が刺激されることにより症状が生じる疾患
若年~中年層にみられる座骨神経痛は本症が原因である可能性が高いところです
仰向けに寝た状態で症状がある方の足を、膝のうらを伸ばしたまま少しずつ挙げていった時、座骨神経痛が強まり途中で挙げられなくなったら診断は概ね確定します
これを一人で判断する場合には、椅子などに浅く腰掛けた状態から症状がある方の足を伸ばしたまま少しずつ挙げてみて、座骨神経痛が強まることで判断できます
中には痛みのため、体が横に傾いたままになってしまうこともあります
② 腰部脊柱管狭窄症
腰椎の加齢変化に伴い、腰の神経根および馬尾が圧迫されることに起因します
高齢の方で、背筋が伸びた姿勢になる立ちっぱなしや歩行中に足の痛みやしびれが生じ、腰が少し前かがみになる椅子に座っている時、横向きで寝ている時、自転車に乗っている時は楽であるといった場合は本症が疑われます
背筋を伸ばした姿勢では、腰の神経が強く圧迫され神経の血液循環が悪くなりますが、逆に少し前かがみになると神経の圧迫が減るためです
歩行中に症状が悪化し一時的に歩けなくなり、前かがみ姿勢で少し休むと再び歩きだせることを間欠跛行と呼び、本症に特徴的とされています
非特異的腰痛
多くは椎間板のほか椎間関節、仙腸関節といった腰椎の関節部分、背筋など腰部を構成する組織のどこかに痛みの原因がある可能性は高い
どこが発痛源か厳密に断言できる検査法がないことから痛みの起源を明確にはできません
骨のずれ(すべり)やヘルニアなどの画像上の異常所見があっても、腰痛で困っていない人はいますし、逆に、腰痛の経験があっても画像所見は正常な場合もあります
画像上の異常所見は必ずしも痛みを説明できないことが理由の一つです
ぎっくり腰等の非特異的急性腰痛は、初期治療を誤らなければ多くは短期間でよくなります
一度発症すると、その後長期にわたり再発と軽快をくり返しやすいことが特徴です
腰痛に影響を与える要因について
腰痛を発症ないしはその症状を悪化させる要因については様々なものが指摘
仕事に関係する要因によって発症ないしは悪化する腰痛を「職業性腰痛」とか「作業関連性腰痛」ともいうことがあります
職場における腰痛発生の要因には
①腰部に動的あるいは静的に過度に負担を加える動作要因
②腰部の振動、寒冷、床・階段での転倒等で見られる環境要因
③年齢、性、体格、筋力等の違い、腰椎椎間板ヘルニア、骨粗しょう症等の既往症又は基礎疾患の有無および精神的な緊張度等の個人的要因があり、これら要因が重なり合って発生します
※腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)策定組織を参照
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