筋肉が疲れるのは乳酸が原因ではない
老いはまた、日常生活の活動量の減少を招きます
長い間体を動かさなかった人が運動をはじめると、すぐに息が荒くなってきついと感じるようになり、疲れ果てて体は動かなくなってしまいます
こうした疲労はなぜ起きるのでしょうか?
これまでは、「疲労物質である乳酸が筋肉に溜まるから」とまことしやかに語られてきました
酸素の供給が少ない条件のもとで、骨格筋を動かすエネルギーとなる「アデノシン三リン酸ATP」という物質が生み出される過程において、乳酸という物質が作られます
これが老廃物として骨格筋の中に蓄積され、筋細胞内のpHを低下させると酸性化が極端に進み、筋肉がエネルギー不足に陥って円滑な動きができなくなってしまうという説明でした
しかし今では、複数の研究によって、この説は否定されるようになりました
実験によれば、疲労によって、確かに乳酸の濃度は高くなり、筋肉のパフォーマンスの低下は見られるのですが、中には低下が見られない動物もいるので、乳酸が直接の原因であるというエビデンスにはつながりません
また、乳酸は老廃物ではなく、酸素が供給されれば再びエネルギー源として利用されますし、筋肉内のpHも一定の範囲内に保たれています
したがって、疲れて体が動かなくなるのは、骨格筋内に蓄積された乳酸が筋肉の疲労をもたらしたからではなく、活性酸素によって攻撃された脳の疲労(自律神経の中枢の疲労)
によるものという説が提唱されています
つまり、筋肉そのものが疲れているだけではないのです
早稲田大学スポーツ科学学術院教授
樋口 満
0コメント